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愛知の某私立大不法侵入記
この話は、2002年7月にまで話が遡(さかのぼ)る。
久々に会った知人との会話が発端となった。
OWL「本当に久しぶりだなー。ところでさ、お前今何してんの?」
知人「今?今は普通の大学生してるよ。○○大学(愛知県の某私立大学)なんだ。」
OWL「ああー○○大学ね、聞いた事あんな。ちゅーか、オレの大学と結構近いじゃん。ちょっと遊びに行かせろって。」
知人「え?オレんち来んの?」
OWL「いや、お前んちじゃなくて、オレを大学に乗り込ませろ。ついでに講義に忍び込ませろ。ほれほれどうした、すぐにでも不法侵入させろ。」
知人「相変わらず訳分からん要求してくるなあ。別にいいけど今まだ夏休みだから講義はやってないぞ。」
OWL「構わん。早速潜入させろ。」
知人「はあ、まあ、別にいいけどね。」
承諾を得たOWLにはもはや知人の海よりも深い溜息など聞こえない。さっさと日時を決めて知人と別れた。
そしてその日は訪れた。2002年9月20日の事である。
意気揚々と電車で1時間ほど掛けて名古屋駅に向かうOWL。そこで知人と合流した。
OWL「なあ、こっから大学はどれくらいなんだ?」
知人「う〜ん、バスと電車を乗り継いでざっと1時間くらいかな。」
OWL「ぎょ。」
名古屋駅のすぐ近くにあるものだと勝手に思い込んでいたOWLには少々衝撃的な事実であった。正直、まだ移動すんのかよという憤りがOWLの心の中で芽生え始めていた。
その知人の言った通り、バスと電車を乗り継いで1時間、知人の大学が視界に入ってきた。
OWL「地方の寂れたテーマパークの入り口みたいだな。」
という大学の玄関を見たOWLの素直な、もう本当に実に非常に素直な(ここ重要)感想に対し、知人は冷たい視線で返してきた。
暫(しばら)く先に進むと、知人はOWLに言った。
知人「あのさ、オレさ。今日、就職ガイダンスとか在学証明書発行とか色々あって、ちょっと忙しいんだわ。だからさ、その辺適当に回っててくんない?」
そいつは願っても無い申し出だ。何しろOWLは、三重大学以外の大学がどういうものか、殆ど知らない。この知人を引きずり回してでも是非是非あっちこっち見て回ろうと思っていたのである。1人になれば引きずり回す者がいなくなる分、身軽だ。そう判断した。
知人の申し出を素直に受け、待ち合わせの時刻と場所を聞いた。知人が用事を終えるのにたっぷり2時間はある。あっちこっち荒らし放題だ。
危ない野望を胸に知人と別れたOWLであった。
さて、何処へ行こう。そう思う間も無くOWLは歩き始めた。行く宛など無い。適当にフラフラするのみだ。
途中で、コンビニを発見した。おお、流石私立大学。どこぞの地方国立大学とは訳が違う。こんな便利なものがあるとは。
大学構内の旅が長丁場になると予想したため、飲み物を購入。レジに向かう途中で、使い捨てカメラを発見してしまった為に、こいつで面白いものでも撮ってやろう、というノリでそれも買う事となった。
そして、大学構内の旅をした訳であるが、長丁場という予想とは裏腹に、1時間もかからずに大学を1周してしまった。面白そうな写真も数枚撮ったものの、こんなにすぐ終わるとは思っていなかったので正直、落胆の色は隠せなかった。
勿論、隅から隅まで言ったとは言えないが、もはやその辺を歩き回る気力が無かったOWLは、待ち合わせ場所でもあった図書館へ向かった。
だが、図書館に着いた時、OWLは少々怖気(おじけ)づいてしまった。
図書館の入り口で、このような張り紙を見つけたのだ。
図書館の利用・閲覧をしたい学外の方は、図書館事務の方まで申し出てください。 不法侵入のスペシャリストOWL、早々にピンチである。
何だ、知人はこれを知ってOWLに図書館にいるように言ったのか。くそー、してやられた。
いや、待てよ。OWLとて、一応大学生のすごく端くれ。OWLがここの大学生かどうかなんて分からないのではないか。他の大学生に紛れてコッソリ忍び込めば図書館に侵入することなど造作も無いのではないだろうか。
そんな悪魔の囁きに従い、図書館に入ってみるOWL。だが、そこでOWLは驚愕した。
よく、遊園地の入り口などでみる、入り口専用のゲートと出口専用のゲートがあったのである。
OWLの大学の図書館にもこういうものがある。しかも、それはIDカードが無いとゲートを通れない仕掛けになっている。ここもそうなのだろう。
悪魔の囁きに耳を傾けるというリスクを冒したにも関わらず、愛知県某私立大学の図書館はOWLの侵入を拒んできた。
ええい、仕方あるまい。こうなったらおかしな小細工はせずに、正面から堂々と密入館してやろう。
こんな間違った決意の下、OWLは張り紙の指示に素直に従い、図書館の事務室へと通じる扉を叩いた。まあ正直、学外の人が大学の図書館を利用するにはどの様な手順を踏むのかという、興味もあったのだが。
中に入ると、明らかにどっからどう見ても事務の人だと言う様な服装を身に纏(まと)った明らかにどっからどう見ても事務のおばちゃんだと言った感じのおばちゃんが明らかにどっからどう見ても事務的な作業をしていた。
OWL「あのー、すいません。」
事務のおばちゃん「はい?」
何しろ、OWLは今、スパイの様な身の上である。例え相手が事務のおばちゃんと言えども、OWLの真の目的を悟られぬようにしないといけない。怪しまれず、あくまでも自然体でいかなければ。
OWL「学外の者なんですけど、えーと、図書館利用したいんですけどどうすればいいんですか?」
事務のおばちゃん「ああ、はいはい。ちょっと待ってね。………この紙に名前とか住所とか書いてくれる?あ、それと身分証明書も見せてくれません?」
OWL「あ、はい。」
ここは素直に従ったほうが得だと判断し、OWLは当時あまりにも眠かったために非常に不機嫌だった事を顕著に表している表情をした写真付きの運転免許証を差し出した。
慣れた手つきで免許証をコピーした後OWLに返却し、1枚の用紙をOWLの前に差し出す事務のおばちゃん。なるほど、事務のおばちゃんの言う通り、用紙には住所や名前、職業などを書く空欄がある。
特に問題も無く次々に空欄を埋めてゆくOWLであったが、とある空欄でペンが止まった。
その空欄とは、「図書館の使用目的」であった。
マズイ。何て書こう。正直に「興味本意」と書いて良いものか。だが、それだと図書館に入れてもらえなくなるかもしれない。当然の事ながら「スパイ」とか「不法侵入」などは以ての外である。あ、でもスパイは格好良くていいかもしれない。
そんな場合ではない。この空欄に埋める単語が今回の不法侵入の達成の如何を左右するのだ。そう考えた結果、結局ありきたりが一番効果的だと判断、空欄に「勉学」と書くということで落ち着いた。ええ、勿論大嘘である。
全部書いておばちゃんに渡すと、おばちゃんは後ろにいた砂漠化の進んだ頭のおじ様にその用紙を渡した。どうやら、そのおじ様がこの事務室で一番偉い人らしい。
と思ったら、そのおじ様は何やら作業をした後、更に後ろにいた更に砂漠化の進んだ頭をお持ちのおじ様に用紙を渡した。どうやら彼奴がここの事務室のボスの様だ。なるほど、先ほどのおじ様とは服装も髪型も年季が違うのは明らか。この事務室の秩序は彼奴の統率の下に守られているのか。うむうむ。
妙な納得をしながらも、予想を遥かに上回るプロセスの多さにOWLは驚愕し、空欄に「不法侵入」と書かなくて本当に良かったという安堵感に満たされた
用紙は再びおばちゃんの手に渡り、おばちゃんはOWLに用紙を手渡し、こう言った。
事務のおばちゃん「はい、じゃあこれを図書館の閲覧という所にいる人に渡してくださいね。」
そう言った後、おばちゃんは何故かニヤリと笑った。何だ。OWLの目的が不法侵入だということがばれたとでも言うのだろうか。それとも勉学と書いたのが余りにもわざとらしかったのだろうか。
余計な詮索をしても答えは出そうに無かったので、OWLは再び図書館の入り口に行く事となった。一度とは言え、悪魔の囁きに耳を傾けたOWLに辛酸を舐めさせた相手である。油断は出来ない。
用紙片手に例のゲートの前に立ったOWL。だが、ここでまたしても疑問が湧きあがる。無理も無い。世の中には不思議な事が溢れているのだ。
その疑問とは、ゲートをどうやって開けたら良いのかという事だ。OWLにはこの大学のIDカードを持っていない。頼りになるのは、先ほど貰った用紙のみだ。だが、この用紙でこのゲートが開くとは到底思えない。さて、どうしたものか。
その刹那、独り苦悩しているOWLの脇を1人の学生が通り過ぎたかと思うと、ゲートの扉に手を掛けた。そして、IDカードやその他の道具を使う事も無く、いとも簡単にゲートを開けて図書館内に入っていったのである。
これにはもう、OWLは呆然とするしかなかった。一体何の為にわざわざ危険を冒してまで事務室に行って手続きをして来たのだ。こんなことしなくても、いとも簡単に図書館に侵入できたではないか。というか、このゲートの存在理由は一体何なんだ。押さえられない憤り。
しかし、わざわざ手間隙掛けて用紙を貰ったのだから、せめて用紙は用紙として天寿を全うさせなければなるまい。
またもや間違った決意の下、OWLは事務のおばちゃんの指示通り、「閲覧」と書かれたカウンターに居たこれまたジャイアンのお母さんにそっくりなおばちゃんに用紙を手渡したところ、こんな超失礼な比喩表現を心の中でしたのを神様が見逃さなかったのか、ジャイアンの母親似のおばちゃんはこんな事を言った。
ジャイアンの母親似のおばちゃん「すいません、今サーバーの方がダウンしておりまして、書庫の検索・閲覧は出来なくなっているのですよ。ですから、一般図書しか閲覧できないのですけどいいですか?」
え、何ですと。
つまり、こういう事か。
図書館に潜入したい一心で、事務の方々の力を借り、免許証のコピーまでしたのに、本当はそんな事をしなくても余裕で入れた。OWLのした事は全くの無駄だったという事か。
絶望に打ちひしがれまくったOWLであったが、ジャイアンの母親が余りにも申し訳なさそうにしていたので、
OWL「あ、別にいいですよ。大丈夫です。」
と爽やかな笑顔を振りかざして図書館を詮索し始めた。
とは言うものの、精神的なダメージが余りにも大きかったOWLには適当に数冊本を物色して椅子に座り、ぼけーっと無気力全開で本を読む振りをするより他無かった。
しばらくして、知人がやって来たのであるが、既に屍状態のOWLに対し、無気力の理由を聞くかと思いきや、こう言い放った。
知人「お前、何て本読んでんだよ。」
ふと我に返ったOWL、手に持っていた本のタイトルを見てみたところ、こう書いてあった。
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もう、情けなさなど既に通り過ぎてしまっていたOWLには、ほう、こんな本があるのか、という感心に近い感情しか出なかった。
と言う訳で、今回の不法侵入の戦利品は、妙なタイトルの本の発見のみ、であった。
こうして、OWLはまたもや青春時代を無駄に磨耗してゆくのであった。くそー、こうなったらアイシャルリターンだ。